第1幕

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半ば独り言のような呟きに、まさか返答があるとは思わなかった。 「――君は、良い審美眼を持っているね」 ふいに耳元で囁かれた綺麗な声に、朱里はビクリと肩を跳ね上げる。 さらりとした金色の髪が朱里の頬に触れ、視界の左端にうつったエメラルドグリーンの瞳と目が合った。 ハッと息をのんだ朱里は勢いよく振り向く。 「……え?」 ところが、朱里の真後ろには誰もいなかった。 直前までそこにいたはずの、確かに視界の端にとらえたはずの人物は、どこにも存在しなかった。 辺りを見渡しても、それらしき人影はまったく見当たらない。 見る影もなく一瞬で消え失せてしまった。 後ろで鑑賞しているお客たちが、急に振り返った朱里を不審そうに見やっていた。 「そんなわけないじゃん。作りかけって、朱里何言って……どうかした?」 隣にいた夏美も、辺りを見回す朱里を見て不思議そうな顔をした。 「今、誰かに……」 夏美に言いかけて、朱里は口を閉ざした。 誰かに話しかけられた、はずなのに、振り返ったら誰もいなかった、なんて言えるわけがない。 幻聴? と内心で首を傾げる朱里だが、それにしてはいやにハッキリと、鮮やかな金色とエメラルドグリーンの色彩が瞼の裏に焼き付いていた。 一瞬とはいえ、確かに目が合った、はずだ。 「朱里? 大丈夫? 人混みに酔った?」 心配そうな夏美の声音に、朱里は慌てて首を振った。 「ううん、平気。そろそろ行こうか」 展示品の前であまり長く立ち止まっていると他のお客に迷惑だ。 ***
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