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その夜、朱里はニュースで昼間に行った美術館が報道されているのを見ていた。
<――現場からお送りいたします。今朝、こちらの美術館に、怪盗ジンから予告状が届いていたそうです。ついに、この街にも怪盗がやってきたのか>
そんな犯行声明がありながら、普通に開館して大丈夫だったのか、と朱里は他人事のように思った。
<予告状には「今宵21時、“紅の星乙女”を頂きに上がります」と記載されていたそうです。現在、我々は中に入ることはできませんが、美術館の入口の様子からでもわかるように、現場は厳重な警備が敷かれております>
カメラが美術館の周辺を映し出す。
美術館の中へ入る道を全て封鎖するかのように、ずらりと並んだ警官たちが建物を取り囲んでいた。
<果たして今晩、予告通り怪盗は現れるのでしょうか>
紅の星乙女は、昼間朱里が友人と見てきたあのお披露目されたばかりの新しい美術品だ。
泥棒に狙われるような美術品だったというのに、自分ときたら作り物みたいだなんて印象を抱くとは…私の見る目もまだまだだなと朱里は苦笑する。
テーブルの上の端末が震えたので確認すると、夏美から「今から現場に行かないか」とメッセージが届いていた。
興味がないわけではないが、わざわざ現場まで見に行くほどでもない。
きっと翌日の新聞やメディアは、今夜の話題で持ちきりだろう。
やめとく、と返事をして、朱里はニュースをBGM代わりにしながら、提出期限の迫る課題に取り組むことにした。
まさかその怪盗が、翌日朱里の下へやってくるとは、この時夢にも思っていなかった。
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