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翌日、新聞の一面が昨夜の怪盗についてだったのは言うまでもない。
「……本当に盗まれたんだ」
郵便受けの前でそのまま立ち読みしながら朱里は思わず呟く。
<怪盗、予告通り美術品を奪い去る! 警察、手も足も出ず>
大きな見出しに、拡大された写真が載って入るが、肝心の怪盗の姿は小さすぎてよく見えない。
朝から報道されている番組でも、美術館に届いた予告状の映像や、何かを追いかけている様子の警官の姿は映っているが、怪盗の姿といえるもの映しているものはまったくなかった。
どこのメディアでも怪盗の姿を捉えることに失敗したのだろう。
これは現場に行ってもきっと何も見えなかったに違いない。
昨夜現場に行ったであろう夏美はさぞがっかりしただろうな、と思った朱里だったが、今朝確認した夏美からのメッセージで「イケメンポリス発見した! 絶対この街のポリスじゃないよ! 派遣されてきたのかな?」とあったのを思い出して、そうでもないかと苦笑した。
「あれ? ……手紙?」
部屋に戻ろうとして朱里は新聞の他に、郵便受けには真っ白い封筒が入っていることに気が付いた。
表面には綺麗な文字で朱里の名前が記されており、誰からだろうと、裏返してみると差出人名は流麗な筆記体で書かれていた。
「……J、I……N……? 外国人?」
朱里に外国人の知り合いはいない。
間違いだろうかと宛名を見直すが、そこに書かれているのはちゃんと朱里の名前だ。
もう一度差出人の名前を眺めて、いや待て、と朱里は引っ掛かりを覚えた。
最近どこかで見たスペルだと、必死に記憶を手繰り寄せ、手にした新聞を見てあっと思わず声を上げた。
昨夜現れた怪盗の名前も、確かJINだった。
新聞に載せられた予告状にその名が書いてあった。
これは偶然か、と首を傾げながらも、その場で開封するわけにもいかず、朱里は一旦部屋へ持ち帰った。
***
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