夏に思う

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蝉の声が絶え間なく降って来る。 焼け付くような陽射しと共に。 毎年この声を聞く度に思う。 夏なんてなくなればいいのにと。 涼しい室内に居ても、うねりを持って届いて来る声。 耳の奥で木霊して、うわあんと響く声は、あれの音を私に思い出させる。 夜毎の空襲。 重なって聞こえる爆音。悲鳴に怒号、燃え盛る炎の熱さ。 落ちて来る焼夷弾と、それに因って煌々と照らし出される家屋に逃げ惑う人々。 ああ、嫌だ。 私には蝉の声が、爆撃機の唸りに聞こえる。 真夜中でも明るい街中では、昼夜構わず聞こえて来て、気が狂いそうになる。 鳴き狂う声は、短い命を持って責め立て咎める。 もうこれ以上、何も求めなくて良いのではないか。 十分な生活を、お前達は手に入れたのじゃないかと。 これは、驕りだと。 蝉が夜を忘れ、鳴き交わす程に辺りを照らし出すなんて。 負けて、もう愚かな行為は繰り返さないなんて誓ったけれど。 今の私達は、地球に戦争を仕掛けているのじゃないか? 必要以上の物を求めて。 きっと負ける。人は負けて滅ぶんだ。 愚かさに気付かないで、もっとと求める限り。
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