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「いたたたたっ、離してよ、じじいっ」
釜本に引っ張られ、広海が連れて来られた場所は、砂浜に立つ小屋だった。
「じゃーん! ここがオレの城だよ」
小屋は板を張り合わせて作ったもので、なんとか屋根らしきものがのっているが、
人が住めるようには見えない。
「マジで?」
『海の家 げん』という看板が立てかけてある小屋の扉を開けると、
中は一応、喫茶店のようになっている。
「ここで、海の家を開くことにしたんだ」
広海の家で、春秋のしらす漁の時期だけ住み込みの漁師として働いていた釜本が、
最近、家を借りたと聞いてはいたが……。
まさか海の家だとは、思わなかった。
「これ、海の家っていうより……」
広海は言いかけて、足に違和感を覚えて飛び上がった。
「ちょ、な、なにっ?!」
見ると、広海の足下には大型犬がいて、舌を出しながら広海を見ている。
「おぉ、やっぱ名づけ親はわかるんだな」
「オ、オッサン、そ、そのデカい生き物は……」
広海が震えながら後ずさると、釜本は軽々と大型犬を抱き上げた。
「こいつ、保護犬でゴールデンレトリバーってやつ」
「ちょ、ちょっと、離さないでよ」
広海が出口へ向かおうとすると、釜本の腕に抱かれていた大型犬が飛び降りた。
「ぎゃーーーっ」
広海は向かって来る大型犬を見て腰が抜けて動けなくなり、舐められるがままになる。
失神寸前の広海に、釜本は笑いながら言った。
「やっぱ『ひろみ丸』は、広海ちゃんが好きなんだなぁ」
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