第一章 しらす女とBV男

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広海は、大学を受験するべきか、悩んでいた。 広海の父・圭祐はしらす漁師だ。 だが、しらす漁は時期が決まっているため、漁のない時は、由子が経営する『しらす浜』の売上が頼りになる。 しかし『しらす浜』は、最近近くに出来たオシャレな店に客を取られ、売上は下がる一方だった。 頭を抱える両親を見て、進学よりも就職した方がいいかもしれないと、広海は思っていた。 でも、幼い頃から文章を書くのが好きで、新聞部に入って記事を書いていた広海は、 大学に行って、もう少し勉強してみたいという気持ちもある。 広海は悩みながら、少しでも両親の助けになればと家の手伝いをし、受験勉強と新聞部部長の仕事を両立してきた。 しかしそれも、町のあじさい祭りと同時に行われる文化祭を最後に、引退しなければならない。 新聞部で記事を書くのが、広海のささやかな息抜きだったのに……。 広海の悩みが痛いほどわかる香奈は、慰めの言葉も見つからず、ただ隣に座り、 一緒にため息をつくことしかできなかった。
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