イァサムの実・短編

イァサムの実が、色づき始めている。

あと、３日もすれば村人総出で収穫することになる。町で売られる頃には食べ頃だ。
甘く、汁気たっぷりの柔らかい、透き通った果実は、スェマナも大好きだ。

見渡す限りのイァサムの畑。そこからずっと先が緑色の壁のようになっていて、白っぽい小路が村へ続いている。村はあの上だ。

幼馴染みのヤヅァムが、その小路をまるで駆け下りてくるのを、スェマナはなんとなく、見ていた。

あんなに急いでどうしたのかしら。あれじゃまるで、ハイチャカの実が転がってるみたい。

ヤヅァムは活発な少年で、この距離からでも全身泥まみれなのがわかる。きっと、川でずぶ濡れになったとか、沼地でエヌイを捕まえて遊んだりとかしていたのだろう。

ふふふ、とスェマナは笑いながら、少し皮に傷がついてしまった、でもよく熟した、15センチ程のイァサムを両手でひとつ、もぐ。

これは売り物にならない。だから、つまみ食いしても怒られない。

少し赤みの強い、紫色の皮を剥くと、強い香りが鼻に届いた。じゅぶり、と音を立ててかぶりつく。

甘い。甘く、爽やかで、これならば今年もイァサムはきっと、高く売れるに違いない。

「スェマナ」