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ヤヅァムが、いきなりスェマナの腕を強く引っ張ったので、食べかけのイァサムの実がべチャリ、と赤茶けた土に落ちてしまった。
「あーあ。落としちゃったじゃない」
スェマナは軽く睨み付けて、他の実を探そうとした。
「それどころじゃない!隠れるぞ、どこかに」
何をやらかしたの、おじさんのお説教にあたしを巻き込まないでよ。
そう、言おうとして、このとき初めてスェマナはヤヅァムの顔を近くで見た。
「……なに、それ」
ヤヅァムの汚れは、泥と、煤と、血だ。
途端、スェマナの全身が粟立つ。あわててしゃがみ込んだ。
「なに、何が起きたの」
ヤヅァムの、十四にしては大人びた顔が強張って、視線が逸らされた。
「ねぇ、何が起きたの?村で何かあったの?」
スェマナだって、森で狩りをしたことが無いわけではない。
この感覚には見に覚えがあった。
大きな獣と戦わなくてはいけないときの、あの感じだ。
「……それ、何の血?」
ヤヅァムは泣きそうな、怒っているような、とにかく顔をくしゃっとさせて、森の方角を指差した。
「村が襲われた。逃げるぞ」
そして身を低くしたまま、歩き出す。
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