イァサムの実・短編

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スェマナの頭の中がぐぁーん、ぐぁーん、と鳴り出した。ヤヅァムはなぜ、村を見せてくれないのか。何かあったのはわかる。自分とて、村が心配である。そのくらいはわかっているのに、なら、なぜ? ……この、大きな、丸い実をたくさんつけたイァサム。この畑から見える限り、世界は平和そのものなのに。 肌が、ピリピリする。 何から逃げているのかわからないまま、スェマナはヤヅァムに連れられて森に隠れた。ひたすら走って、走って、森の奥に向かう。 切るとダバダバ水が出てくる、リボシクの蔓を切って水分を補給し、食事はモシュリの実で済ませた。 いくらモシュリの実がたくさんあっても、それだけで立ち行く訳がない。 森をうろうろしているうちに、二人はどこかの町へ続く小路を歩いていた。 小汚く、痩せぎすの、文無し。 スェマナはヤヅァムに見つからないようにため息をついた。ナイフも着火道具も常に身に付けていたからなんとかなった。でも、布団が恋しい。村が恋しい。お父さんもお母さんも、どうしているだろう。 疲れきって、噴水をぼんやり眺めていたら、声をかけられた。 「君たち、どうしたの?」
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