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優しそうなおじさんは、名前をイハナヒと名乗った。
「もし、行くところが無いのなら、おじさんのお兄さんの宿で、働くかい?」
スェマナにとって、辛い日々が始まった。
あの優しそうなイハナヒと、その兄、タハナフは全く違う人間だったようだ。
スェマナは今まで全く知らなかったことだが、どうやらヤヅァムは魔法を使えたらしい。ヤヅァムが学校で魔法を教わっている間、スェマナは宿の料理と洗濯、掃除をする。スェマナは学校には行かせて貰えなかった。
ヤヅァムが帰ってきたら少しはスェマナの仕事を手伝ってもらえるが、ヤヅァムにも仕事は山ほどある。毎日ほんの少し与えられるパンとスープだけではとても足りない。せめて、睡眠時間がたっぷり欲しい。
それでも、ほとんど殴られる事がなかったのはまだ運が良かった方なのかもしれない、とスェマナは諦めることにした。
食事も布団もある。服もお仕着せがある。ほんの僅かだが、給料を貯める事は可能だ。
……そんな生活が何年か続いた。
タハナフのお使いの帰り道、スェマナはいつかの噴水の脇を通りかかった。
大きな、丸い泉があり、中央に何かの石像がある。それが何の石像か、スェマナは知らない。
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