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治療が終わると、ヤヅァムは仕事に部屋を出ていった。そろそろ夕暮れが近い。ヤヅァムの魔法で宿に明かりを灯すのだ。
スェマナも手空き時間というわけではない。洗濯物も、食事の下拵えも、いくらやったところで終わりが見えない。
ふぅ、と一息ついて、スェマナは洗濯に取りかかろうとした。そこにタハナフがやってくる。
「スェマナ、来い」
嫌な予感がした。
タハナフの表情を見て、口に苦いものが、広がっていく気がした。
「スェマナ、お前、顔は綺麗だからな……手を出さなくて良かった」
くらくらする。
「お偉いさんのお相手をしろ」
お偉いさんの、お相手。他の女の子がそういう事をさせられていることを、スェマナも流石に知っている。何回か『お相手』をさせられたら、そのあとは気に入ってくれた客に連れていかれたり、よその店に連れていかれたりするのだ。
「それは……あたし、何もできません」
そんな事になったら、スェマナはひとりになってしまう。泣きそうになりつつも、タハナフを見上げる。タハナフは下卑た笑いを浮かべていた。
「なぁに、全部お任せすればいい。……そうだ、適当に声は出しておけ、気持ちいいと言っておけば喜ばれる」
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