婚約破棄

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「……惨めだったんだ。」 ぽつりと彼はそう言った。 「お義兄さん、貴方にはわからないだろう。きっと、ね。親が決めた婚約者と結婚しろって言われた時、子供心で何故?と思った。だって、そうじゃないか。付き合う延長が結婚だろ?でも、俺たちは違う。初めから決まっている結婚だ。最初は許嫁の意味がわからなかったが、成長していくと理解していく……段々息苦しい思いがした。違うのに夫婦となる結婚がとても惨めに思えた。」 彼は動画を見た。 「君を俺は好きになれない、そう思った。君も同じ、許嫁を決められた立場だったから。もし、君を好きになれば、俺は葛藤したことを良かったと思うかもしれない、乗り越えたと思うかもしれない……それだけは、それだけは嫌だった。幸いかな?君を好きになれなかったし、君も俺を好かなかったけど、夫婦になる以上は慈しむつもりだった。そんな時、この食事会で彼女を見たんだ。思ったよ。同じだとね。」 椅子の背凭れに寄り掛かり、動画から天井を見上げる彼の姿はどこか達観としていて、清々しい気がする。 「初めて知ったんだ。みんな一緒の気持ちだとね。お義兄さんも君も同じ……だから、俺は彼女と堕ちた。この惨めさを慰めて欲しかった。葛藤をどうにかしたかった。手段がこれだけだったのか?と聞かれると困りますが、俺には他に浮かばなかったんですよ……お義兄さんなら、もっと上手にやったかもしれませんね。」
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