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「君を誰かに渡さずに済んだことだ。」
「え?お兄様、一体なにを……」
「幼い時から許嫁がいるという事実のせいか、君はあまり異性と関わることはなく、私たち家族以外の男と親しくなる考えがなかった。結婚相手がいるため、君は周りに目を向けることがなかったと私は考えている。だから――。」
お兄様は言葉を切り、どこか緊張を孕んだ真剣な眼差しで私を見つめた。
「いつか私たち双方の婚約を破棄して君に求婚したい、と考えた。」
「……え、どう……え?」
「すまない。突然で付いてこれないだろうが、私は君を愛している。血は繋がっていないが、兄妹だ……この想いは隠すべきだと思っていた。だが、君と過ごす度に思った。私は君を好きだ、と。誰にも渡したくない、と……それが、彼でもね。」
嘘だと思いたかった。
「知っていたかい?私の気持ちをお父様は知り、ずっと養女であることを教えてくれなかったのだよ。酷いだろう?だが、我慢はもうやめてやる。私たちはお互いに婚約破棄をした身……最早縛る鎖はない。私はこれから全力で君を口説く。」
兄だと思っていた。
「私の愛しい妹。私は君と一生を生きていきたい。だから、家族をやめる。」
獰猛な獣のように瞳を輝かせ、一心にお兄様は私を貫く。
思わず伏せるが、私がこの話を受け入れるのは時間の問題だと自分自身が一番よく理解していた。
笑顔で婚約破棄を申し出たお兄様は、更に輝かしい笑顔で私に求婚してきたのだ。
End.
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