私の嫌いな季節

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「ねぇ、このピンクと紺、どっちがいいかな?」 「着てみたら?」 「試着、時間かかるよ」 「構わないから着ておいでよ。待ってるから」  優しい笑顔を私に見せた篤。  買い物に付き合わせても、嫌な顔一つしないで、のんびりとした私のペースに合わせてくれる篤が大好きだ。 「どう?」  ピンクを披露した私に「可愛い、モデルさんみたい」と篤はニコニコした。  薄いピンクの生地に、少し濃いピンクで描かれた花。 「なんか子供っぽくない?」 「そう? 紺も着てみなよ。ガラッとイメージが変わりそう」  淡い色ばかりを選ぶ私にしては、珍しい選択。  少し大人っぽい姿を篤に披露したいという、私なりの下心。  紺の生地に、淡い黄色で咲き乱れる花は、夜空で光る星空みたいだ。 「どう? 変?」  一回転した私に、「綺麗。こっちのが似合ってるよ」と篤は笑った。 「なぁ、この帯どう? 千隼が試着してる間に見てたんだけど」  淡い赤に、白とゴールドのラメで模様が描かれた帯。  試着の時に選んだ黄色の帯と見比べて、私は赤い方を即決した。  この浴衣で篤と夏祭りだ。今から楽しみで仕方が無い。 「なんでニコニコしてんの?」 「ふふ、夏祭り楽しみ」 「そうだな。千隼、浴衣すぐに汚しそう」 「汚さないもん」  くすくす笑う篤に、「汚さない!」と主張をしたら、「分かった分かった、冗談だって」と篤は頭を撫でてきた。  同い年なのに、まるで年上かのように、暖かく私を見つめてくれる篤。    なのに帰り道、暑い中、汗まみれになりながらも寄り添って、繋いだ手を離さない、そんな可愛い一面もあるんだ。
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