私の嫌いな季節

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 夏祭りの日、私は化粧も髪型も気合いを入れて、準備をし始めた。 「どう?」 「可愛いよ。目がくりくりしてお人形さんみたい」  鼻歌で、ご機嫌になりながら髪をまとめる。 「その飾り可愛い」 「かんざし?」 「・・・・・・かんざし。可愛い。写メ撮るから、こっち向いて」  篤は覚えているだろうか。  私達が付き合うことになったのも、一年前の夏だった。  まだ大学生だった私達は、蝉の鳴き声がうるさい木の下で、キスをした。  あの時も、珍しく髪の毛を結いていた私に「こっち向いて」と笑って写メを撮ったんだ。 「篤も浴衣似合ってるよ」  少し照れくさそうにした篤の手を引いて、夏祭りへと向かう。  人だかりの中で、ずっと手を握ったままの私達。  篤は食べ物を食べる度に、私がこぼすんじゃないかとヒヤヒヤしているようだ。 「大丈夫だってばぁ」 「ほら、今かき氷こぼしたよ」  慌ててかき氷を拭いた篤を、私はどんな顔で見つめていたのかなんて無意識だけど、「ニコニコしてる場合じゃないよ」と篤は言った。 「お土産にりんご飴、買って帰る」 「うん、買ってこうか」 「ヨーヨーは?」 「ヨーヨーはいらないよ」  突飛なことを私が言った時に見せる、篤の笑顔が好き。 「金魚は?」 「千隼が面倒見るんだよ?」 「篤は?」 「俺はいらねーもん、金魚」  手を繋いで歩きながら、そんな些細な会話に二人でにこにこした。 「浴衣、また着たいな」 「花火大会でも行く?」 「どこの?」 「ほら、そこの海でやるだろ。来週」 「行くっ。夏は楽しいことだらけだね」  私の自慢の彼氏は、私が笑顔だと嬉しいと言う。  私が喜んでると幸せだと言う。 「千隼が楽しそうだから、夏は好き。千隼は苦手なのにな、夏」 「汗かくしね。でも、浴衣着れるし、好き」  篤が「可愛い」と言ってくれるからーー  「綺麗」と言ってくれるからーー  私とイベントを過ごしてくれるからーー  だから夏も篤も私は好き。
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