私の嫌いな季節

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 海岸で行われる花火大会ーー。  電車で二駅。  私達は、混み合う電車に乗って、会場へと向かった。  少し早めに陣取った、花火に近い場所に、シートを引いて、味気ないたこ焼きを頬張って。 「焼きそば買ってこようか」  篤の問いかけに、私は付いていこうか迷った挙句、「うん」と、そのまま席を立たなかった。  そろそろ花火が始まる時間。  なかなか戻ってこない篤を気にかけていると、大きな花火が上がった。  そんなに焼きそば混んでるのかな。  振り返って、何度も篤を探した。  何発上がっただろう。 「ごめん、お待たせ」 「混んでたの?」 「うん」 「何かあった?」  篤は何かあるとすぐ顔に出る。 「いや、碧羽(あおは)に会った」  碧羽・・・・・・篤の元カノだ。 「・・・・・・そう。それで?」 「少し話しただけだよ」  私は花火に目を向けた。 「花火始まっちゃったよ」 「うん」  元はと言えば、碧羽に振られた篤を励ましたところから始まった私たちの恋。  ニコリともしないで、上の空で花火を見る篤に、私は嫌なドキドキを抱えた。 「篤・・・・・・」 「ん? 焼きそば食べるか? こぼすなよ」  急に多弁になったりしてーー。 「私のこと好き?」 「好きだよ。心配すんなよ、ごめんな」 「うん」  篤が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫。  何も心配する事なんてないんだ。  今の彼女は私じゃないか。  好きだって言ってくれたじゃないか。  篤はその後いつも通りに戻って、私は少し安心したけれど、それでも篤が何か考え事をしているように見えてしまった。 「線香花火やりたい」 「今度やろうか」 「うんっ」  口数の少なくなった私たち。  花火があったから、花火に夢中になってるんだと思い込むことが出来た。  目に焼き付く、赤、青、黄色。  最後、海面を横切っていった綺麗な白い花火。  わずかに香ってくる花火の火薬の匂い。  大丈夫、大丈夫。  私は篤に寄り添って、そう言い聞かせた。
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