私の嫌いな季節

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 ある日の夜、篤が手持ち花火を持って帰ってきた。 「千隼~、花火だぞ」 「覚えててくれたんだ」  あれから別に変わったことなんて無い。  篤は普通に帰ってくるし、おかしな挙動なんて何も無い。  というよりも、お互いに忙しくて、あまり家でも顔を合わせられずにいたんだ。  公園に行って、花火に火をつけた私たち。 「見て、絵がかけるよ」  くるくると花火を回した私に、篤は寂しそうに笑った。  違う、何も変わった事なんて無いなんて・・・・・・私は久々にきちんと篤の顔を見たじゃないか。  それまでずっと、顔を合わせても、私は篤のことをきちんと見ることなんて出来ずにいた。  どうして、どうして寂しそうに笑うの? 「千隼・・・・・・」  聞こえたのに無視をした私。  嫌なドキドキが止まらない。  篤が碧羽に再会した花火大会。  あの日から変わってしまったのは私の方で、篤を正面から見つめるということをしなくなってしまったのは私の方で、何か真実を知りたくないと思ってしまったのは私の方でーー。  篤はもしかしたら、何か言おうとしてたのかもしれない。  篤はもっと前から、寂しそうな笑顔を私に向けてたのかもしれない。 「千隼、話があるんだ」 「やだよ」  私はそう呟いて、線香花火に火をつけた。 「千隼・・・・・・」 「線香花火って、独特な匂いがするよね」 「ごめん」  私はずっと、火種を見つめていた。  この火種が綺麗に咲いたら、私が心配してるようなことは起きないーー  そんなおまじないを心の中でかける。 「見て、綺麗だよ。おっきい」  そんなおまじない、気休めにもならないや。 「千隼・・・・・・」 「・・・・・・碧羽のところに行くの?」 「ごめん」 「「ごめん」じゃ分からないよ!」 「あいつ、一人だから・・・・・・」  篤が居なくなったら、私だって一人になるんだよ。 「・・・・・・なんで、花火なんか買ってきたのよ」 「最後にお前の願い聞いてやりたくて」  それは違うよ・・・・・・篤。違う。 「だったら、花火なんか買ってきて欲しくなかったよ」
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