私の嫌いな季節

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「そっか・・・・・・ごめんな」 「謝るくらいなら、そばにいてよ」  泣いたってどうにもならないことは、分かってた。 「千隼」 「お願い・・・・・・名前を呼ばないで」  私の名前を呼ぶ、篤の声が好きだった。 「傷付けてごめん」 「・・・・・・帰ろ、もう」  私は花火をまとめて、先に歩き出した。 「あのさーー」 「行く宛があるなら、私一人で帰るから・・・・・・。出てく準備とかも、私が居ない時にして」  こんな強がりで意地っ張りな私を引き止めて。 「ごめんな」  声を小さくして謝る篤に、私は何も言わなかった。 「今日は一緒に帰るよ」 「行く宛が無いの?」 「・・・・・・無いこともないけど」 「だったらそっちに行ってよ! そうやって無駄に優しくしないでよ!」  優しい篤が大好きだった。  でも、優しい篤が大嫌いだ。 「・・・・・・分かった」  途中、私が十字路を曲がると、篤はそのまま真っ直ぐ行った。  これが私たちの末路だ。  家に帰って、子供みたいに泣き喚いた私。  あの時、私も焼きそばを買いに、ついていけば良かったのだろうか。  もっと、心配する素振りを見せればよかったのだろうか。  篤ときちんと向き合えば良かったのだろうか。  こんな沢山の思い出を置いていかないで。  こんな幸せな時間を突然奪わないで。  目に色を、鼻に香りを、耳に音をーー  残して行かないで。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加