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その日は、酷い眠気が続き、僕はホテルへ帰るとスーツのままベッドに横になった。目を瞑ると、瞼の裏に一人の女の子が映った。
遠藤 咲
僕の中学時代の同級生だった。眩しい笑顔をこちらに向けている。僕は右手を伸ばし、彼女の頭を撫でた。彼女はくすぐったそうに身をよじり、色白の頬を染めた。
「誠ってさぁ……。天才だよね!」
「ん、なに。天才?……俺が?」
急によく分からない褒め言葉を出されて、何のことかと思う。
「だってー、今日の終業式の表彰式、全ジャンル総なめだったじゃん。絵画コンクールでしょ、詩でしょ、作文でしょ、俳句でしょ、あと、作曲コンクールも!」
「そうは言っても、まとめれば国語と副教科系じゃん。」
僕は内心嬉しく思いながらも、天狗にならないように気を付けながら言った。
「何、言ってんのー!そんなこと関係ないでしょ?すごいって言ってんのー。色んな才能があって。私にはこの健康な体しか取り柄が無いもん。」
日に焼けても一度は赤くなるものの、黒く変色しない生まれながらの色白肌。あまりに透明感があり、その上身体つきが華奢なので、咲は一見不健康に見える。しかし、小学校の頃から知っている咲は、確かにこれまでの学生生活無遅刻・無欠席を誇る健康体の持ち主だった。
「良いじゃん。健康であり続けるのは、すごいことだよ。俺のは、中学レベルの天才だからさ。」
「何それー。」
ふふっと笑って、咲は僕の顏を見つめて、尋ねた。相変わらず可愛い目だ。特別大きいという訳ではないのかもしれないけれど、人の良さが良く伝わる垂れ目だった。
「知らねー。所詮は、凡人って言いたかっただけ。」
「あはは!」
僕たちは、顔を見合わせて大笑いした。こんな時間がずっと続くと思ってた。僕の隣には咲がいて、咲は笑ってて、僕を褒め続けてくれる。僕は、自分が調子に乗らないように、冗談で咲をもっと笑わせる。幸せな時間だ。
本当に幸せ…………。
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