第1章

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ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。  スマホのアラームが鳴る音で、僕は目を覚ました。猛烈な眠気に襲われたかと思ったら、そのまま眠っていてしまったらしい。夏の猛暑で、エアコンもかけずに寝ていたので、シャツは汗でビッショリだった。ついでに、身体を起こすと、頬をひと雫の液体が流れた。……汗?いや、涙だった。何故、僕は泣いていたのだろう。何か幸せな夢を見ていた気がするのに……。 「おーっす!笛吹!」  週明け、登校すると、いきなり背を強く叩かれた。僕は、その拍子に持っていた薬を落としそうになった。キャップを開けたペットボトルの方は、水が少し飛び出てしまった。 「ビックリした……。おはよう、佐藤か。」 僕は、卒論のチェックをしてもらうため、病院のあるN県から大学のあるこちらへ戻ってきていた。 「元気無いな!就活、キツいのか?」  僕と違って大学の成績優秀な佐藤は、卒業後は大学院に進みたいと言って、今は目下受験勉強中である。勉強って、死ぬほどツラいのに、よく頑張るなと感心する。 「ん、まぁな。お前の方こそ、院はどーよ。そっちの方がキツいんじゃね?」 出会った当初は、いかにも体育会系というガッチリとした身体つきに高いテンションだったので、彼が進学を目指すというのは、僕には意外だった、 「おー、うん。まぁな!けど、俺は元気だけが取り柄だから!」 「元気が取り柄」 随分昔に、別の人からよく聞かされていた言葉だった。僕は、手の平の中の白い錠剤をギュッと握り締めて、羨ましく思った。  青白い僕の顔を見て、 「お前はいつも元気が無いからなー。試験は受けるから、単位は取れてるけど、出席日数ギリギリだろ?健康にはもっと気を遣えよ?」 と、佐藤は屈託無く言った。ズキリと僕の胸が痛む。 「ああ、サンキューな。」 「おう!何かあったら、相談しろよ?」 そう言うと、佐藤は走って僕の元を去って行った。僕は、今しがた礼を言った大学内で一番の友人を、睨むような目つきで見送った。
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