猛暑に佇む、貴女と私

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 「蝉ってさ……すぐ死んじゃうって言わてるけど、意外と生きてるんだよね」  「知ってる、土の中で長く生きてるんでしょ? 」風が吹き抜けてゆく、池の水面がさざめいた。  「うん、その後、羽化して一週間かそこらで死んじゃう」  「その間、すごくうるさいよ? 」  「傍から見たらそうかも知れないけど、蝉としては愛を歌ってるんだ、七年越しのラブソングだよ、で、その後すぐ死んじゃう」  「少し悲しくない? 」  「そうかな、僕は凄く素敵だと思うよ、だって、長い間暗い土の中でずっと誰かを待ってるんだよ、そして、その生命を燃やすようにして一生懸命に愛を歌うん、最期は誰かと結ばれて、それで死んじゃう。すぐ死んじゃうのは嫌だけど、僕も蝉のように、長い間誰かと巡り合う日を待って、その後、生命を燃やすように恋をしてみたい、そう思うんだ」  「やっぱり、鈴木くんはこじらせちゃったロマンチストって感じ」  「褒めてるの? それ」  「どっちでもいいわ」朝霧さんは雲を眺めていた。上空の大気は不安定らしく、やけに動きが早い。  「蝉のように、生きられるといいね」彼女は付け加えた。  「うん、難しいかもしれないけどね」  「きっと出来るよ、保証する」  「ありがとう」本当は、朝霧さんに、僕の歌を聞いて欲しい、そんな思いを抱きながら、僕は言った。  「もうこんな時間、鈴木くん戻った方がいいんじゃない?」「えっ」僕は腕時計に目を落とした、針は一時を回っている(彼女は僕が勉強にノルマを課していることを知っていた)だけど、今日はもう少しだけ、このまま朝霧さんの隣で風に吹かれていたかった。  「もう少し、ここにいるよ。ここ、結構気に入ったんだ」  「良かった」彼女はいつものように少しだけ目を細めて笑ってから続けた。  [向日葵、もっと近くで見てみない? 」  [いいよ」僕がそう言うか言わないかの内に朝霧さんは花壇へと歩いていた、僕もすぐに後を追う。  「どう? どっちの方が背が高い? 」朝霧さんは向日葵と肩を並べて僕に聞いた、  「そりゃあ、向日葵だよ」  朝霧さんはうんと背筋を伸ばして、両手を空に届くくらい一杯に広げてから言った。  「これならどう? 」  「ギリギリで向日葵かな」  「やった! 」彼女は喜んでいた。  「勝ってないよ……」  「でもいいの、ちょっとでも向日葵に近づいたから」          
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