夏の終わりと、彼女の横顔

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 夏休みも、この土日で終わりだという日、僕は玄関で朝霧さんに会った、夕日が綺麗な日だった。  「もう、夏も終わりだね」朝霧さんは階段を降りながら振り向いて言った。側の木でひぐらしが鳴いている。  「あんまり勉強しなかった気がするなぁ……」  「なんかね」  「でも、なんとなく楽しかったから、夏休みには満足してるよ」  「私も」朝霧さんはそう言ってから、自転車のスタンドを跳ね上げた。  「僕、今まで夏が嫌いだったんだ、しかも死ぬほど。だけど、今年の夏はとても楽しかった、朝霧さんのおかげだよ」  「私も、とっても楽しかった」だけど……と彼女は続けた 「最初、いきなり話しかけられた時はこの人一体なんなんだろうって思っちゃった」  「僕だっていきなり話しかけちゃって、ビックリしたんだ」得体の知れない「何か」が背中を押してくれた、今はそんな気がする。  「そうだったんだ! 随分堂々としてたから、気付かなかった……」  「まぁね」僕は頭をかいた。  木々の間から、真っ赤な夕陽が差し込み、彼女の横顔を照らす。夏の終わりの少し物悲しい風が、僕らの間をすり抜けていく。「夏なんて、なくなればいいのに」そう思った僕の姿はもう、どこにもなかった。  「それじゃあ、またね」僕は笑って言った。  「うん、またね」彼女もいつものように、少しだけ目を細めて笑った。やっぱり、とても素敵だ。彼女の自転車が、スピードを上げて遠ざかっていく、彼女は一度だけ振り向くと、僕に手を振った。僕が手を振り返すと、満足げに笑みを浮かべたまま、走り去っていった。    さて、受験まであと半年、どこまで努力できるだろうか、いや、どこまでだって出来る、きっと彼女が隣にいてくれるはずだから……  そう思った瞬間──僕の視界がブロック状のノイズに歪んだ。
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