夏の終わりと、彼女の横顔

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 「少尉、出撃の時間だ」軍医が、僕を五感直結型体感装置から出した。そうだ、僕は十七だが、学生なんかじゃなかった、僕は兵器のパイロットだった。  「いい夢を、見れたかい? 本当はもう少し夢を見ていて欲しかったんだが、そうもいかなくなった」  「いえ、わざわざ『平和な世界を見たい』なんて戯言に付き合って頂けただけで幸いです。これから、あんな平和を創るために飛べる、そう思うだけで、随分と力が湧いてきます、ありがとうございました」  「送り出すことしか出来ないが、武運を祈っているよ」  ・・・    狭い兵器のコックピットに身を沈めると、隊長から通信が入った、  「いい夢見たか? 」  「ええ、もちろんです。僕は受験生で、夏休みにすごく素敵な女の子に出会いました。隊長は? 」  「俺はサラリーマンで、毎朝素敵な嫁さんと、可愛い子供が二人、出勤する俺を見送ってくれるんだ、出撃の時に管制官が声をかけてくれるか、くれないかの俺にだぜ? 」  「早く戦争なんか終わって、世界が平和になればいいのに……」  「ああ、そうだな」  「それじゃあ、平和になった世界でまた会いましょう、隊長」僕はフットペダルを踏み込む、機体がゆっくりと滑走路に向けて歩き始めた。  「先に行って待ってるぜ、鈴木ィ」隊長はそれだけ言うと、空に舞い上がっていった。  ・・・  「鈴木晃一、AF―2雷電、発信許可願います」  「ご武運を」  「了解、発進します」操縦桿を引き込むと、景色が流れていく。  ひび割れた滑走路の脇に、向日葵が一輪、天に向かって咲いているのが見えた気がした。そして、その脇に、ニッコリと笑って立っている、朝霧さんの姿も──    
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