2016年、夏

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 正直な事を言うと、その時のことは思い出したくない(こうして思い出してしまっているが)時刻表を見ると、たった今、前のバスが出たところだった。次のバスが来るまでは微妙な時間だったので、僕はロータリー沿いに並んでいるガードレールの一つに腰をおろした。  ・・・  恋だの愛だの、浮ついた二文字を諦めた僕は、「よろしい、ならば部活だ」と中学の時から憧れていた弓道に打ち込んだ……が、勉学は疎かになるわ(当然、留年と落第の、寸前だった)顧問のハゲは精神論者だわ身体も精神も壊すわで、一年も経たない内に部活を辞めてしまった。やはり、憧れというのは、理解から最も遠い感情だ、という言葉は本当なのかも知れない、そう思った。  ・・・  ちょうどやって来たバスに乗り込むと、僕は音楽を聴き始めた。激しいドラムの音は鼓膜を叩き、ハイトーンのボーカルの声は貫く、ギターとベースの唸りは鼓動を熱くした。なんとなくアブない気分になれるので、僕は外見に似合わず、こういった曲を好んだ。  ・・・  部活を辞め、箍が外れた僕は、はしゃぎまくった。勉学に関しては部活をやめた後ろめたさから、文系では学年で五本の指に入る程度には頑張った。  そして、僕は高校二年生になった。クラス替えの結果は可もなく不可もなく微妙なものだったが、少なくとも女子の顔面偏差値に関しては5くらい上がった印象を受けた。これで僕にも「青春」そして捨て去ったはずの恋と愛の二文字が戻ってくるかと思われたが、そんな事は無かった。一年の間にすっかり対人、もとい対女恐怖症の重症患者になっていた。つける薬の一つでもあれば良かったのだが、残念なことに症状を緩和出来るものすら無かった。医学の進歩すら、僕を深淵からは救い出してくれなかった。  そうして再び失意の中始まった僕の二年生の生活は概ね道化師(ピエロと言った方が平易でいい)と言ったところだろう。別に居場所を求めていた訳でもないのに、あちらこちらで八面六臂の大サーカスを繰り広げる、大きな声でものを言い、ちょっと癖のある行動をし、家に帰っては対して面白くもないのにそんなことをしている自分を嫌悪する毎日、本当は僕だって自分がユーモアを持っているようなタイプの人間ではないことなんて、重々承知の上だったが、合わないことをすると心が痛む。
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