夏の夜の夢

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 僕はバスに乗るやいなや夢ときを始めた(変な夢を見たときはよくやるのだ)スマホを片手に、夢を探る。夢の中に出てきた女性の姿と言うのは、深層心理的な理想の女性像らしい。僕は「セミロング」好きであるということを公にしているが、深層心理では短めの髪型が好きであったなどとは思いもよらなかったので、目を見開いた。    そして、夢の内容だが、どうやら僕の何もしなくても素敵な女性が側にいたら良いのに、という至極自分勝手な思いが脳裏に結像したものらしい、それと同時に僕自身の性格が温和だが、損な役回りである事を示してくれていた。そんな事、言われなくても自分が一番よく知っている。それよりも僕の心に引っかかっているのは、あの娘のことだ──  ・・・  そんなぼくの疑問は、すぐに解決した。国語の講習の時間、教室に入ってきたに何気なく目を向けた、まさにその時だった──そこには、まさしく夢の中で見たのと同じ娘がいた。僕がアメリカ人だったら、何やら叫びながらハグをし、頬にキスしていただろう。しかし、残念ながら僕は生粋の日本人だったので、浮ついた心臓が肋骨をぶち破ってワルツを踊り始めるところまでで済んだ。  思い返してみると、僕は初日の講習で彼女を見かけたとき、確かに素敵だと思った。まさか、このような形で全てがつながる、なんて考えてもいなかったけど──  全てが解決したように見えて、大きな問題が発生していた。僕には彼女との接点が一切ないのだ。クラスはおろか、取っている授業の一つさえ同じでない、夏の講習が終わったら恐らく彼女の顔を見ることすらないだろう。それに加えて僕は社会的地位もカロリーもゼロのモヤシ系男子だ。  女っ気がないことでの世界ランキングでは17年連続のぶっちぎり1位、この間はギネスにも載った(もちろん嘘だ)僕のことだ。勿論、ただ眺めているだけだ。でも、真面目な顔をしてペンを走らせる美しい彼女の姿を見ているだけで、息が詰まりそうになる。  たまに視線を感じてか、彼女がこちらを見ることがあった、そんな時はいつも、すぐに目を逸し、伸びをした。僕は貴女の事を見ていたのではなく、ただぼーっとしていただけですよ、と言わんばかりに。  でも、心の中では、何か得体の知れない「想い」のようなものが伝わっていたらいいのに、とも思っていた。哀れなことに、僕はこの夏に淡い期待を抱いていた──
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