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「夏子さん」
ふと、そんな私の意識に、澄んだ声が滑り込んできた。
「怖い思いをさせて、申し訳ありませんでした。
でも、もう大丈夫です。
僕がいますから」
『怖かったね、でも大丈夫。
これからは私がいる』
記憶の中にある声と、その言葉が重なった。
なす術もなく攫われそうになっているのに、誰も助けてくれない。
そんな絶望の中で半ば諦めかけていた私を、私と同じ小さな体で助けてくれた、あの日の幼馴染の声に。
ハッと顔を上げると、金色の瞳が確かな意志を持って私の目を覗き込んでいた。
狼のような瞳の中にいる私は、泣き出しそうな顔をしていた。
秘書課で辣腕をふるう暁夏子の表情じゃなくて、あの日の小さな女の子の表情だった。
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