華知らぬ暁、灰色の子犬

16/27
前へ
/27ページ
次へ
「夏子さん」  ふと、そんな私の意識に、澄んだ声が滑り込んできた。 「怖い思いをさせて、申し訳ありませんでした。  でも、もう大丈夫です。  僕がいますから」 『怖かったね、でも大丈夫。  これからは私がいる』  記憶の中にある声と、その言葉が重なった。  なす術もなく攫われそうになっているのに、誰も助けてくれない。  そんな絶望の中で半ば諦めかけていた私を、私と同じ小さな体で助けてくれた、あの日の幼馴染の声に。  ハッと顔を上げると、金色の瞳が確かな意志を持って私の目を覗き込んでいた。  狼のような瞳の中にいる私は、泣き出しそうな顔をしていた。  秘書課で辣腕をふるう暁夏子の表情じゃなくて、あの日の小さな女の子の表情だった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加