華知らぬ暁、灰色の子犬

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『怖かったね、でも大丈夫。  これからは私がいる』  あの言葉に私がいまだに支えられているなんて、きっとあの子は知らないと思う。 「暁(あかつき)、それにしても、良かったのか?  華さんを一人で帰して」  ダンディズムが声になったらまさしくこうなるだろうという艶やかな声で言葉を紡ぎながら、私の上司である人事部秘書課課長、通称・ボスはチュルリと丼の中に残っていた最後の麺をすすった。  優雅な指先には似付かない割り箸が、そっと箸袋で作った箸置きに戻される。 「一人ではありません。  佐藤課長も一緒です」 「ますますもっていいのか?」 「華が嬉しそうにしていたので、たまには許してやらないとと思いまして」  私はサクサクサクと軽やかに海老天をかじりながら答えた。  私の方の丼にはまだ数筋の麺が残っている。  割りばしでそれを追いながら、私は唇に飛んだダシを舌先ですくう。
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