華知らぬ暁、灰色の子犬

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 何と答えていいのか分からなくて沈黙していたら、車は走り始めた時と同じく滑らかに止まった。  窓の外を見れば、見慣れた駐車場。  そもそもあのお蕎麦屋さんは私のマンションから電車で2、3駅程度しか離れていない。  そこまで時間がかかるわけではない。  瀬戸は車を止めると、外に出て助手席側へ回ってきた。  ドアを開けてくれるんだと気付いた私は慌ててシートベルトを外す。 「夏子さん、今の僕の手の小ささを、覚えていてくれませんか?」  ドアを開いた瀬戸が、私に手を差し出す。  無意識に手を預けたら、指をからめられた。  でも、言い寄ってくる男にされた時のような嫌悪は感じなかった。  細くて少年そのものの手に、劣情が含まれていなかったせいかもしれない。 「必ず、夏子さんの手より、大きくなりますから」
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