ヒロトの場合

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『ブィィイン』 機械の音が辺りに響く。 ヒロトの後ろに居たロボットは滑るようにして動き、後退した化け物に迫った。 『ズブッ』 ロボットは、逃げ出そうとする『それ』に対し、もう一本のヤリを突き出した。 それは、身をひるがえした化け物に突き刺さり、その脇腹から大きく血を吐き出させた。 『ぶぉぉおっ!』 絶叫の中、ロボットはヤリを引き抜き、そしてまた突き刺す。 『ズブッ』 『ズブッ』 『ズブッ』 何度か繰り返される光景。 やがて聞こえなくなる化け物の声。 ヒロトは理解していた。 助かったのだ。 なんとか助かったのだ。 ロボットに乗るというのなら人間だ。 こんな丸いロボットなど見た事も聞いた事もなかったが、国が隠していた秘密兵器かなにかかもしれない。 『こちらヒューイ、殺害完了』 ロボットから声がまたする。 やはり人間だ。 安心してきた。 そして。 痛みが体に表れる。 当然だ。 下半身をグチャグチャに踏まれてしまったからだ。 見る限りでも、内臓が飛び出したりしている。 「痛いです!」 ヒロトは叫んだ。 「助けてください!早く、早く俺を病院に!」 ロボットは死んだ化け物からヤリを引き抜き、そしてこちらを振り返った。 血塗れの、でも、優しい戦士。 そんなイメージだ。 「早く…痛みがスゴいんです、早く病院に連れてってください!」 ヒロトの叫びにロボットが近づいてくる。 よかった。 なんとかコレで死なずには済みそうだ。 マサユキには悪かったが、その分は生きてやりたいし、葬式にもちゃんと出てやる。 ヒロトは思い、安心して息を吐いた。 『ドスッ』 『モリ』は異世界人の男の顔面を貫き、スイカのように砕いた。 「こちらヒューイ、異世界人は2名確認、どちらも死亡したと判断した。後片付けと死亡確認は任せる。以上」 シルバリオン。 返り血に汚れた銀色のそのロボットを動かしながら、ヒューイは帰投を開始した。 異世界人は今や年間数千単位で現れる。 理由は知らない。 ただ、その全ての異世界人が友好的で有効的かというとそんなワケはない。 当然だ。 頭の悪そうな死にかけの異世界人のガキにトドメを刺してやったのは情けだ。 助かるか、助かっても働けないような異端に割いてやる薬や予算などないのだから。 当然だ
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