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ナナコの場合
風呂上がり、私は髪の毛をドライヤーで乾かしていた。
775。
ナナコ。
私の名前と同じように読める数字がプリントされた、よく解らないメーカーの安物ドライヤーだ。
買うのを決めたのも、アマゾンで適当に見ていて、この755の数字を見掛けたからなのと、割と安い値段だったからというだけである。
『ブオオオオッ』
と、髪をくしゃくしゃにしながら数分、私は電源を切った。
夜だからうるささに気を付けて、なんてワケじゃあない。
めんどくさくなったからだ。
まだ軽く湿ってる髪の毛だったが、そんなものは朝になれば乾いてしまっている。
どうせ朝にはシャワーを浴びるんだし、ドライヤーをする意味もそんなに無いような気がした。
ただ、女子力を磨く、というのなら、そういうめんどくさい事もやらなければならないのだろう。
まだ私は24歳だけど、そう余裕を持ってダラダラしていれば、あっという間にオバサンの仲間入りだ。
会社に居る行き遅れてガミガミうるさいアイツらみたいになんてなりたくはない。
普通の仕事をしてる彼氏も居るし、会社のオバサン達とは私はレベルが違う。
ドライヤーをガチャガチャとたたみ、洗面所に戻すと、私は化粧水を顔にペタペタとはたき出した。
鏡に写る顔。
やや茶色いロングヘアーが似合う、割と可愛い顔をしている。
実際、高校から大学までの間、3人と付き合ったし、告白は10人くらいからされた。
まだ狙える。
私はそう考えている。
今の彼氏自体に不満はない。
優しいし、イケメンの彼氏。
でも、給料は普通。
結婚したとしても贅沢な暮らしは出来ないだろうな。
だから、私はまだ上を狙う。
合コンもよく出るし、でも、相手が一流企業の男でもなかったら、すぐに帰宅する。
そんなのを彼氏にバレないようにしている。
でも、仕方ないんだよね。
この世はなんだかんだ言ってもお金がなきゃダメ。
思いつつ、私は洗面所を出ると、玄関に置いてあったバッグを掴んだ。
帰宅して放り投げたままにしてたんだ、こういうのも女子力としてダメなんだよね。
ふふっ、と鼻で笑いながら、私は寝室の扉をガチャリと開けた。
広がった明るい世界。
パジャマ姿でバッグを持った自分が、何故だか昼間の中に居る。
「…何コレ、夢?」
振り替えるがそこにはドアなど無かった。
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