ナナコの場合

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「……は?」 私はアホみたいな声を出していた。 周りは私の家なんかじゃあなかった。 街だ。 いや、違うかな。 市場。 そっちの方が当たってる気がする。 テレビであるイタリアとかの、ああいう感じの市場だ。 石の床、なんか言い方があった気がするけど、とにかく、私が踏んでいるのはコンクリートじゃあなかった。 石が敷き詰められたそこに、パジャマのまま私は立ち尽くしていた。 人は沢山居る。 私が居るのは、広場から市場へ続く道、そこだ。 人は。 「……」 外人だらけ。 そう思った。 白人、黒人、アジア人。 私がざっくりと見分けられる範囲だけでそれだけ居る。 どこの国かまるで。 そうだよ。 ここはどこなの? どこの国なんだよ。 私はさっきまで家に居た。 のにも関わらずこんな昼間の市場に居る。 コレ、なんなの? 誰かに話しかけようとも思ったけど、頭がパニックで出来ない。 意味が解らない。 私はなんなの? 何でこんなとこにいんの? 通りすぎる人々をぼんやりと眺めながら、私はただ何も出来ずに、何も動けずにいた。 「ねえ、お姉さん」 「ひぁいっ!?」 急に掛けられた声に私は変な声を出す。 振り向いて確認する。 声を掛けてきたのは若い男だった。 ハタチ…よりは上かな、私と同じくらいかもしれない。 黒髪をツンツンに立たせた彼は日本人に見える。 身長はそんなに高くはない。 170くらいかな、やせても太ってもいない。 イケメンでもブサメンでもない。 彼は学生服のようなものを着ていたが、その色は学生服とは全く違ったライトイエローだった。 シャツは黒く、カーゴパンツだろうか、下は黒く、履いているスニーカーはまた黄色い。 「びっくりさせて申し訳ないんっすけど、お姉さんアレっすよね、今、ワケ解らない感じの」 彼は私の言葉を待たず、表情から察したみたいに続ける。 「自分は唯風人、ゆいかざと、です。よろしく」 「は…はぁ」 彼の、風人に軽く会釈をしながらも、私は警戒していた。 ナンパでは無さそうだが、この男はなんなのだろう。 私がおかしいのを、私がおかれた状況がおかしいのを知ってる感じはする。 でも、見た目は変なセンスをしたただの兄ちゃんだ。 「お名前は?」 「あ、えっと……ナナコ、です」 答えて良いものか迷ったが、私は風人に名前を伝えた。
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