ナナコの場合

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「ナナコさん、ですか。じゃあ、ナナコさん、ついてきて貰えますか、僕に」 「え、ちょっ…」 いきなりの提案に私はしどろもどろになる。 「ワケ解らないとは思うんっすけどね、解るでしょ?ここがおかしい…っていうのくらいは」 風人の言葉に私は反論と異論を飲み込んだ。 彼はこの『世界』がおかしいと知っている。 彼はこの『世界』を知っている。 「怪しい…って、思うかもしれないんっすけどね、まあ、俺も自分で思いますもん」 軽く笑いながら風人は続ける。 「別にナンパとか犯罪に巻き込むとか、そういう目的じゃないんすよ。いや、ナナコさんが可愛くない、なんては思わないっすよ、自分は」 「はあ…」 私は生返事をしながら考えた。 彼、風人が妙なのは間違いない。 でも、日本語が普通に通じてるし、彼も日本人なのかもしれない。 名前だって日本人のそれっぽいし。 「一応ね、自分の仕事なんっすよ、それは歩きながら説明したいんすけどね」 風人の言葉を聞きつつも、私は周りを確認する。 市場周辺に、日本人に見えなくもない人が何人か居るのは解った。 でも、それが彼のように日本語を喋れるのか、そもそも友好的な人間なのかが解らない。 風人も友好的を装った人間かもしれないが、それでも、この異常な状況でなら、彼に取りあえず付いていくべきなのかな。 「取りあえず、言いますよ、隠してもしょうがないんで」 私は風人に向き合った。 「ここは異世界っす。日本じゃあないんですよ」 「!?」 「解りますよね、なんかが変だっていうのは。あなたは多分っすけど、いきなりここに放り出された…そうじゃないんすか?」 「異世界…って、それどういう…何?なんなのそれって」 混乱しながら説明を求める私に、風人は黄色い制服の位置を直しながら続ける。 「理由は自分にも解んないんっすよね。でも、それが毎日のようにあるんすよ。自分が居た『世界』そこからこの『世界』にいきなり来てしまう…っていうのがね」 「コレは……何?ドッキリだとかそういう」 私の言葉に真顔で首を振り、風人は続ける。 「ここは、この『世界』の国のひとつ、フィリオウルです。あなたはもう多分自分の『世界』の国、日本には帰れない」 「帰れない…って、あなたそれどういう」 「自分もなんっすよ。数年前にこの『世界』に飛ばされてね。帰る方法だけじゃない、他の『世界』から呼び出す方法だって解らないんすよ」
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