ナナコの場合

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「何…言ってるんですか?」 私は至極当然な事を、ただ感じたままに吐き出した。 彼の、風人の言っている意味がよく解らない。 いや、解りはする、だが、解らないのだ。 そんなおとぎ話を信じろ、そう彼は言うのだろうか。 「とにかく」 風人がまた歩き出した。 ふわりと風がそよぎ、柑橘系の香りが流れる。 彼の付けている香水かなにかだろう。 私は彼の後に続いた。 「あなた、多分平成産まれかそこら、ですよね」 と、風人は首でこちらを指した。 「あ、ハイ…」 平成という元号を知っている。 それならば、彼はやはり日本人というのだろうか。 裸足でペタペタと石畳を着いていきながら、私は彼の言葉を聞く。 「スマホとか、そういうんっすか、そういうのはありますか?」 「スマホ……ああ、そっか」 私は唯一の持ち物であるバッグの中を漁る。 充電はまだ70%以上ある。 しかし、アンテナは圏外だった。 「あなたはいつから……えっと、何年に居ました?ここに来る前の話なんっすけど」 「私は…2017年の5月、5月の日本に」 「…そう」 こちらの言葉を途中で遮ると、風人は無言のまま道を進んでいく。 数十秒経った頃か、彼は再び思い出したように繋げた。 「じゃあ、アレっすね、結構新しいパターンのヤツ、っすね」 「…新しいパターン?」 風人に尋ねる。 彼はこちらを見向きもせず、背中を向けたままだ。 「大体、この世界に『飛ばされて』くる人間は、1980~2030年くらいの人なんっすよ。ああ、理由は自分にも解らないっすけどね」 意味が解らない。 それはやはり変わらなかった。 「そのスマホなんすけど、使えないっすよ」 言いながら、風人はやはりこちらを見ず、歩いたままポケットから何かを取り出した。 パッと見はスマホに見える。 「…それ、スマホじゃないんですか?」 「スマホっちゃスマホっすね」 風人はポケットにそれをしまいながら。 「でも、規格から何から違うんすよ。「世界」…ああ、向こうの、僕らが居た「世界」の話っすけど、それと違うって事です」 話を聞き、私はスマホをバッグにしまった。 「詳しい説明は」 風人は立ち止まった。 目の前、私達の目の前には大きな建物がある。 病院と市役所の特徴を合わせたようなコンクリート製に見える建物。 「まあ、後々ね」 風人は首でそちらを示し、進む。 私もその後に着いていった
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