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風人が建物に入る。
建物の表には何か書いてあったが、見た事の無い文字だったので、それが何かは私には理解出来なかった。
ブゥン。
自動ドアが開いた時の香り、その建物内の香りは、やはり病院と市役所の入り交じったような特殊なものだった。
「ちょっと待ってて貰えますか?」
「あ、ハイ」
風人はそういうと、受付の方に向かった。
私は近くに並んだイスに腰掛ける。
木製のベンチ。
テカテカとしているそれは、手間がかかっているように思えた。
普通の待合ならば、金属とプラスチックで出来たものが当たり前だというのに何故だろう。
やはり、自分の『世界』と同じで裏金かなんかを回して業者が高値でこしらえたのだろうか。
「……」
私は自身に当惑した。
思考の中でそれが認められつつある。
あり得ないの。
私の暮らしていた『世界』がこの『世界』と違うというなんて。
風人の言葉に洗脳されつつあるのか、私は片手で軽く髪をかき、平静を保とうとする。
だが、やはりダメ。
心臓はバクバクするし、今の状況がなんなのかよく解らない。
夢に違いない。
そう思いたくもあるが、明らかに違う。
現実感がありすぎる。
夢独特のフワフワした頭のモヤモヤ、それが全くない。
クリアな『世界』が見えるし、五体の感覚もいつもと変わらない。
さっき、風呂上がりだった。
その感覚も鮮明すぎるほどある。
やがて、10分くらいは経っただろうか。
「ナナコさん」
「ハイ」
風人に呼ばれ、私は歩み寄る彼に近づいた。
「今から、検査があるんすけど、それやってもらえますか?」
「検査?なんの検査です?」
「まあ、色々とっす。やってもらわないと、僕も立場上困るんで」
「…はぁ」
生返事をしながら、私は風人の後に着いていく。
彼の向かったフロアは2階だ。
一階に比べて天井が明らかに高い。
パッと見、四階以上はある建物だったハズだが、妙な構造をしているな、そう思った。
「…………」
「…………」
風人は時折、通りすがる人間と会話をかわしていたが、内容は解らない。
日本語ではないからだ。
英語やドイツ語、フランス語とも違う。
語学が堪能では無い私にさえ解る。
それは、聞いた事の無い言語だった。
「…………」
「アウター……」
その単語だけが聞き取れた。
そして、私は部屋に案内される。
妙なカプセル、全身検査の時に使われるあの機械を透明にしたようなそれが部屋の真ん中に陣取っていた。
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