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それからは、それからの1日はあっという間だった。
変なカプセルに入れられたのは当然、普段やらない、普段の『世界』では体験した事のないものをいくらかされた。
妙な注射をされたり、薬を嗅がされたりも。
体の検査だけではない。
筆記試験のようなものやら、タイピングテストのようなものまでも、だ。
「ふぅぅ……」
私は疲労に息を吐きながら、通路に置いてあるソファベンチに腰を掛けた。
(今日は疲れたわぁ……)
「どうぞ」
「あ、ありがと」
ツンツンヘアの男、この世界で唯一の馴染みとも言える彼からオレンジジュースを受けとると、半分以上を一息に飲んだ。
「んな急がなくてもさ」
ハハッ、と笑いながら風人は隣に座り、タバコに火を着けた。
フシュー、と、煙が通路に舞い上がる。
「タバコ」
「ん?ああ、禁止じゃないんすよ」
携帯灰皿を取り出しながら、風人はギイッとソファベンチに背を預けた。
「えっと…」
「ああ、今日は終わりっすよ、もう」
こちらの言いたい事を先読みし、風人は続ける。
「とりあえず、宿舎とご飯は用意してありますから、心配はしなくって大丈夫っす」
「…………」
しばらく考えた後、私はオレンジジュースの缶をギュッと握りしめる。
「この『世界』って…この『世界』って」
またもや、風人が先読みして答える。
「多分、現実感ないんっすよね?でも、それは本当なんですよね」
煙をプワーと吐き出し、彼はこちらを向いた。
携帯灰皿に灰をポンポンと落としながら。
「現実感が無いのは当たり前なんすよ、自分も最初はそうだったしね。でも、しばらくしたら慣れるっすよ。というか、そうなるしかないんすよ」
「…………」
しばらく黙り、風人の吐く煙が漂う。
「……が解らない……意味が解らないし!」
「……まあ、そりゃそうでしょうね。僕と変わらない、っていうか、異世界人はみんな最初はそうなんっすよ。んで、いずれかは慣れる。帰れないんだから、慣れるしかない……そういう事っすね」
「どういう……どういう事!」
感情の高ぶりが収まらない。
怒りがある。
とても強い怒りが。
でも、それをぶつける目標がない。
こんな、夢みたいな『世界』を信じろと。
こんな、ウソみたいな『世界』を信じろと。
「こんな事、こんなワケ解らない状況、信じられるワケない!」
私はただ叫んだ。
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