ナナコの場合

9/10
前へ
/20ページ
次へ
私が色々考えていると、風人が煙を大きく吐いた。 タバコを消しながら。 「適性検査、っなんっすよね、アレって」 「適性…?」 適性検査。 なんのだろう。 私が眉間にシワを寄せるのも構わず、彼はゆっくり繋げる。 「なん……っつうんすかね。あの……生きるため、っていうか」 「…生きる?」 自分の心臓が跳ねるのを感じた。 イヤな予感がする。 生きるため。 もしかしたら。 もしかしたら、それは。 「ウィルス…か何か、っていうの…?」 思いが口から勝手に出た。 この『世界』が私の『世界』と本当に違うのなら。 そう。 「そういう」可能性もある。 たとえば、日本人がアフリカに渡航するのなら、予防注射をしなければならないように。 それをしなければ、かなりの確率で。 「……」 死ぬ事になる。 そういう場合がある。 同じ『世界』でもそうなのだから、その可能性があってもおかしくない。 映画の宇宙戦争ではそういうオチだった。 地球を侵略しに来た、圧倒的に科学力に長けた宇宙人が、地球人ならなんの問題もない空気、それに対応出来ずに死んでいく、という。 その可能性が、今、私に降りかかっているのだ! 心臓のバクバクが止まらない。 目が泳ぐ。 やがて。 どれだけ時間が経ったかは解らない。 むしろ、ほとんど時間は経っていなかったかも解らない。 風人がまたタバコに火を着ける。 「…いや、そういうんじゃあないんっすよね。別に」 「は?」 私からマヌケな声が飛び出した。 「多分、ナナコさんが心配してる…っていうのは、アフリカとかそういう感じの事っすよね?」 脂汗をかき、マヌケな顔をしているだろう私の返答を待たず、彼は続ける。 「そういうんじゃあないんですよ、ね。生きるための、っていうのは、そのまんまの意味です」 「そのまんま?」 「言ったでしょう?最初に」 「最初に?」 考えが違っていたせいで、私は頭がパンクしてオウム返ししか出来ない。 「適性検査だ、って。つまり、生きるための適性ですよ、この『世界』での」 彼の言っている意味がよく解らない。 彼の言っている違いがよく解らない。 「この『世界』、この国は今、戦時中なんですよね。もしかしたら、言い忘れてたかもですけど」 「……」 「だから、生きるため」 「……戦争!?」 気付いたら叫んでいた。 そんな非日常的な単語をただ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加