ヒロトの場合

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「たっ……て…て…ひ…っ」 マサユキのうめき声。 それが何を言いたいのかなんてすぐ解った。 そして俺は。 「ふああああああっっ!!」 裏返った声で絶叫し。 そして。 全力を出した。 ワケが解らない状況。 震える体。 モタモタとする足。 だが、何をしなければならないか。 俺は一瞬しか迷わなかった。 マサユキは助けを求めている。 友達である俺に。 明らかに死にそうな声で俺の名を。 だから俺は。 「う、うわあああああああ!」 女みたいに情けなく高い声を出しながら。 俺は全力で走り出した。 『それ』とは別の方向へ。 「…っ…………た……」 振り絞ったようなマサユキの泣き声が聞こえてきた気がする。 だが、構わなかった。 意味が解らない。 ワケが解らない。 何もかも解らない。 ただひとつだけ解った。 俺も殺される。 ここは動物園でもない。 そんな所に見た事もない動物?が居る。 それがどんだけヤバいか解る。 確か、ダチョウやシマウマにだって人間が殺される事があるハズだ。 なにかのテレビで見た気がする。 マサユキは助けられない。 マサユキには悪いと思う。 だけど無理だ。 『アレ』を相手にしてマサユキを助ける事なんて無理だ。 ビビった足がまともに動かない。 正座してから立ち上がった時みたいに変にフラフラとする。 自分が見ている世界がやたらと狭くも感じる。 ピンチだ。 死ぬんじゃないか。 俺もマサユキみたいに『アレ』に襲われたら助からないんじゃないか? 公園入口のポール。 黄色い塗装が剥げた鉄で出来たそれを掴むと、スピードをなるべく落とさないよう、腕力を使って体を公園に引き入れる。 車が入らないようにする物だ。 『アレ』が1メートルくらいジャンプしない限りはポールに引っ掛って入って来られないだろう。 まあ、サイや牛がジャンプするなんてのは俺は知らないが、出来ないと思う。 公園に入る瞬間。 感覚か本能か、自然に道の向こうに居る『それ』を振り向いて確認してしまう。 まさにその通りだ。 悪い予感しかしなかった。 まさにその通りだ。 マサユキの体を捨て、『それ』がこちらへと走って来ているのが見えた。
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