0人が本棚に入れています
本棚に追加
「たっ……て…て…ひ…っ」
マサユキのうめき声。
それが何を言いたいのかなんてすぐ解った。
そして俺は。
「ふああああああっっ!!」
裏返った声で絶叫し。
そして。
全力を出した。
ワケが解らない状況。
震える体。
モタモタとする足。
だが、何をしなければならないか。
俺は一瞬しか迷わなかった。
マサユキは助けを求めている。
友達である俺に。
明らかに死にそうな声で俺の名を。
だから俺は。
「う、うわあああああああ!」
女みたいに情けなく高い声を出しながら。
俺は全力で走り出した。
『それ』とは別の方向へ。
「…っ…………た……」
振り絞ったようなマサユキの泣き声が聞こえてきた気がする。
だが、構わなかった。
意味が解らない。
ワケが解らない。
何もかも解らない。
ただひとつだけ解った。
俺も殺される。
ここは動物園でもない。
そんな所に見た事もない動物?が居る。
それがどんだけヤバいか解る。
確か、ダチョウやシマウマにだって人間が殺される事があるハズだ。
なにかのテレビで見た気がする。
マサユキは助けられない。
マサユキには悪いと思う。
だけど無理だ。
『アレ』を相手にしてマサユキを助ける事なんて無理だ。
ビビった足がまともに動かない。
正座してから立ち上がった時みたいに変にフラフラとする。
自分が見ている世界がやたらと狭くも感じる。
ピンチだ。
死ぬんじゃないか。
俺もマサユキみたいに『アレ』に襲われたら助からないんじゃないか?
公園入口のポール。
黄色い塗装が剥げた鉄で出来たそれを掴むと、スピードをなるべく落とさないよう、腕力を使って体を公園に引き入れる。
車が入らないようにする物だ。
『アレ』が1メートルくらいジャンプしない限りはポールに引っ掛って入って来られないだろう。
まあ、サイや牛がジャンプするなんてのは俺は知らないが、出来ないと思う。
公園に入る瞬間。
感覚か本能か、自然に道の向こうに居る『それ』を振り向いて確認してしまう。
まさにその通りだ。
悪い予感しかしなかった。
まさにその通りだ。
マサユキの体を捨て、『それ』がこちらへと走って来ているのが見えた。
最初のコメントを投稿しよう!