ヒロトの場合

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「っ!?」 しかねえ。 俺はすぐに判断した。 『それ』は2メートルくらい前まで迫っている。 背中にあった小さな窓、そこから出るしかない。 「っ!」 舌打ちをする。 窓は斜めにしか開かない、斜めまでしか開かない造りになっている。 試したが、その隙間から出るのはどうしても無理だった。 「クッソがっ!」 ポケットに手を突っ込み、それを取り出す。 銀色のジッポー。 先輩から貰った物だから多少サビている。 俺はそれを握りしめ、ハンマーのようにして窓に叩きつけた。 『ガインッ!』 まだだ。 『ガインッ!』 まだ。 もっと強く。 『ガシャァン!』 ガラスが割れ、飛び散る。 「ってえなクソがっ」 跳ね返りで腕にガラスが刺さった。 それをすぐに抜く。 痛さに構っている時間が無い。 窓枠に残ったガラスもバリバリとジッポーで砕き、剥がす。 振り向く。 『ぶぉぉお!』 『それ』はまだ大丈夫だ。 俺は間に合った。 窓から体を滑るように出す。 「あぃっ!?」 バランスを崩し、地面に叩きつけられた。 血と泥に体と服がまみれている。 腕と体が痛い。 早く病院に行きたい。 だが、今は後だ。 俺はトイレの裏をぐるっと回りこみ、そのまま公園の外を目指す。 取りあえず大人だ。 誰か大人に知らせないとヤバい。 『あんなの』が町に居るんなら、鉄砲を持った狩りの人やポリ、動物園の人、自衛隊とか、そんなのが絶対に居るハズだ。 なら、それに助けて貰わなきゃヤバい。 実際、マサユキは。 「…………」 走りながら、一瞬だけ回りが白く消し飛んで見えた。 マサユキは大丈夫なのか。 今更かもしれないが、それが気になった。 死んだのか? いや、そんなワケはない。 昨日まで、さっきまで普通につるんでいた俺の連れだ、友達だ。 それが。 それが死ぬワケなんてない。 ダッシュする体は勝手にそちら側に向かっていた。 確認したい。 マサユキが大丈夫かどうか。 グロい事になってるのは解るけど、生きているかどうかだけでも確認しなきゃあならない。 何故だか俺はそんな義務感?とかいうのにかられていた。
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