ヒロトの場合

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ハアハアと。 息が乱れる。 走っているからだけじゃない。 こんな状況に自分が居る意味が解らない。 その焦りがもちろん大きい。 疲れももちろんあった。 公園をダッシュで抜け、道路に出たところで止まり、息を整える。 汗だくのシャツが張り付いて気持ち悪かった。 トイレの窓から地面に落ちた事で身体中が泥まみれにもなっている。 早くシャワーも浴びたい。 20秒くらいか。 まだハアハアと息はしているが、俺は動き出した。 ゆっくりと。 タバコ屋の辺り。 そこに転がったマサユキのとこへと。 しばらくし。 「……なんっ…て、なんで……」 マサユキの前で俺は立ち止まった。 座る事もしない。 『こんなもの』は今まで見た事がない。 血まみれの死体。 「…っ!…」 ダッシュした疲れもあったせいか、俺はマサユキから顔をそらし、その場で盛大にゲロを吐き出した。 「…っ…ふっ……ふーっ…」 ツバを吐き出し、口元を腕でぬぐう。 マサユキは完全に死んでいる。 少なくとも俺にはそう見えた。 『アレ』の角で刺されたせいで、腹は破れ血と『中身』がどろどろとこぼれている。 ポコポコという音がたまにするのは、血の中?に混じった空気の泡が弾けるからみたいだ。 もうマサユキはダメだ。 もう『コレ』はどうしようもない。 判断した。 俺は小走りで動き出した。 マサユキには悪いが仕方ないんだ。 タバコ屋の横を抜け、そのまま先にある大通りを目指し。 目指す。 目指すつもりだった。 だが、俺の前に広がった景色はそうじゃあなかった。 大通りと商店街がある見えるハズなのに。 見える位置に居るハズなのに。 「どう……なんだよ……なんなんだよ…」 そこは河川敷だった。 意味が解らない。 今居る場所が解らない。 振り返り、タバコ屋を確認するが、それはやはり見知ったいつものタバコ屋だ。 それにこの辺りで工事なんてしてたのは知らない。 いきなり商店街が潰れるワケなんてないし、地震で崩れたりしたなら俺だってそれを解るハズだ。 そして。 『ド…スン……ド…スン』 イヤな予感がまたする。 そう、絶対に当たってるのが解る。 『ド…スン』 そう。 俺の目の前にまた別の『なにか』が現れたのだ。
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