ヒロトの場合

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夕方の闇を背負っているそれは、丸かった。 丸い体、丸い肩、丸い足。 丸に丸を何個もつけた、そんなシルエットをしている。 ただ、その目が、目だと思うそれがひとつだけこちらに向いて緑に光っている。 「ふわああああ!?」 ヒロトは走った。 そいつとは逆向きに。 自分の叫びが辺りの音を消す。 後ろに居る『アレ』の足音も聞こえない。 全力を出したヒロトはすぐにマサユキの辺りまで来た。 踏まないように気を付けながらタバコ屋の角を公園の方へと曲がり。 「!……」 『それ』に出会った。 トイレから出てきたのだろう。 体の左右が木くずやコンクリートにすれて汚れているように見えた。 立ち尽くすヒロト。 いや、すぐにぺたりとしりもちをついた。 もう疲れた。 もう疲れて走れない。 もうダメだ。 解った。 ここが何かは解らない。 この異世界がなんなのかは解らない。 ただ、俺はここで。 ここで。 「えわああああ!!」 絶叫する。 しりもちをついたまま手で下がるヒロトの片足、その足首を『それ』が踏み潰した。 そうだ。 俺はここで、死ぬ。 痛みに絶叫しながら理解していた。 『それ』の次の一歩がもう片足の太ももと股間を踏み潰す。 涙とツバ、絶叫でジタバタするしか出来ない。 『それ』の顔が目の前にある。 マサユキの血で汚れた2本の角。 両目の下から生えたその武器。 獣の強い臭いがする。 もう一歩。 『それ』の足がヒロトの横腹を踏み潰した。 痛みは既になにかおかしくなっている。 自分の身体中が異常に熱い、そういう感じだった。 そして。 『ズブッ!』 刺さる音が聞こえた。 ヒロトはそれを半目で見ていた。 『ぶぉぉおおん!』 『それ』が大きく鳴き、ヒロトの体を何度か踏みながら下がる。 『それ』の額には何かが刺さっていた。 ヤリか。 『それ』の角よりも遥かに長く、そして頑丈そうな、多分鋼鉄で出来た…。 助かった? ヒロトは振り返る。 さっきの『アレ』がそこに居た。 光の加減、焦りでさっきは解らなかったが、コレは。 「ロボッ…ト…?」 『こちらヒューイ、ツノツキヨツアシと異世界人を確認した。行動に移る』 その銀色の丸いロボットは夕焼けにオレンジを反射させていた。
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