第1章

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夏目を見つめる琥珀の瞳が揺らめいた。 けれど、側にいて欲しいと思うのは―――。 「……暖簾、そろそろ出そうか」 「あ、はい」 秋月が、そっと視線を落とした。 そして迎えた大晦日、開店は夕方からになる。 午後一番で配達するから、結構な数を受けた仕出しのお節は午前中で詰めてしまう。三段重ねのお節の一の重は口取りだ。 「こっちは田作りは煮干じゃないんですね」 出汁巻き卵にきんとんを並べて入れながら、夏目。 「この辺りではわかさぎの干物を使うんだ。」 「煮干よりも肉厚で美味しいですよね」 その横に、海老の旨煮と数の子の醤油漬けを詰めて。千代紙を敷いた上には花形に抜いた梅のゼリーを置いた。 二の重は焼き物。鮭の焼き漬けに、ちょっと洋風な一品はローストビーフ。千切りのラディッシュをたっぷり添える。タタキ牛蒡に百合根の甘煮、柚子をくり抜いて酢の物を入れる。 三の重は煮物。お煮しめの上には薄味で煮た手毬麩と、松葉に刺した銀杏を飾る。身欠き鰊を中に入れた昆布巻きを並べた。 「はい、出来上がりっと!」 重箱の一つ一つをビニール製の風呂敷で丁寧に包んで、夏目が腰を伸ばした。 「じゃあ配達に行ってきます」 「気をつけてな」 車のキーを手渡す秋月に、夏目がはいと笑って頷いた。 配達から戻ってきて、休む暇もなく。年越しの蕎麦を打ちにかかった夏目の脇で、秋月が夕べからくつくつとトロ火で煮込んでいる寸胴の蓋を取った。鶏ガラと葱が入った蕎麦の下地は醤油で味を整える。 「鶏で下地を作るって、珍しいですね」 蕎麦といえば熱いものも冷たいものも鰹出汁と思っていた夏目が、言う。 「田舎料理だけどな。寒いときはこの方があったまる」 浮かんでくるアクを丁寧に掬えば、表面には鶏の油が金色にとろりと漂った。
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