プロローグ

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 十五歳の男子中学生に贈られたのは、小型のミュージックプレイヤーとイヤフォンだった。そこには、『素敵な音楽を聖夜に』という可愛らしいメッセージカードが添えられていた。  彼はイヤフォンを両耳に装着し、音楽を聴こうとしたのだろう。流れる音楽はクラシックだった。そして、それが彼にとって最後の音楽になる。  電源が入ると抜けなくなるように、イヤフォンは細工されていた。イヤフォンに使用されていたのはテルビウムだ。  原子番号65のそれは、磁場の中に入ると形が変わる性質を持っている。  その合金であるテルフェノールは、磁力の方向や大きさに応じて瞬時に伸び縮みする。テルフェノールの棒を木製テーブルにつければテーブル自体がスピーカーになるほどだ。  音楽に合わせた強力な磁場の変化によって、イヤフォンは激しく振動した。
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