プロローグ

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 余程の衝撃だったのか、彼の遺体にはイヤフォンを抜こうとして両耳の周辺を掻き毟った痕が生々しく遺っていた。  イヤフォンは彼の頭蓋骨を揺らし続け、脳に深刻な損傷を与えたのだ。  一緒に暮らしていた母親が見つけた時には、吐瀉物を撒き散らし床に倒れ込んで冷たくなっていたという。その時もイヤフォンは振動し続けていたそうだ。  十六歳の無職少年の元に贈られたのは大小様々なアロマキャンドルだった。  ビニール製の袋で密封され、『大人の香りを聖夜に』という可愛らしいメッセージカードが添えられていた。  彼はそれらをテーブルの上に並べて、ワクワクしながら火を点けたのかもしれない。  その中にオスミウムの粉末が含まれているとは、想像することもなく……。
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