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「……うん」
本当は、おばさんの言葉も、暁や颯太の言葉も本当には理解していなかった。
目の前でゆらゆらと揺れるピンクの花びらのように、私は自分だけの理想の夢の中で寝ころんでいたのだから。
「メトロノーム……」
「そう。貴方に教えていた時から壊れずにずっとこれを使っているのよ」
「そうか。私、メトロノームがないからリズムがおかしかったんだ」
飲みかけのコップをカウンターに置いて、鍵盤の前に座る。
「おばさんがピアノの先生をしてくれてた時は、リズムが狂わなかったのに。今はもうバッラバラ。颯太もヘタクソだって笑うの。酷いでしょ?」
「楽譜は決められたリズムや指示があるものね。今の百花ちゃんには難しいのかもしれないわね」
ふふふと優しく笑ってくれた。
どの楽譜?と聞かれて、私はボロボロになったファイルを取り出した。
というか気づかなかった。
携帯でもメトロノームのアプリぐらいあるのに、どうして自分のリズム感の無さを矯正しようと思わなかったんだろう。
ぐちゃぐちゃに混ざった音符が、花びらのじゅうたんの上で眠る私に、まるで流れ星の様に落ちてくる。
そんな胸の痛みを感じた。
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