目覚ましを探す手は、無残にも宙を切る。

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『ああっ颯太が私のお肉取った!』 『いいじゃんか。お前にはピーマン乗せただろ』 『お肉とピーマンを誰が交換するのよ!』 暁の送別会のはずなのに、私と颯太が喧嘩していた。 暁は背もたれのある椅子に座って、大人しく焼きおにぎりを食べていた。 お兄ちゃんが汗を垂らしてお肉を焼いてくれているのに、私と颯太は走り回って大喧嘩。 身体が弱かった暁は、口ばかり達者になって、私達に毒を飛ばしてきた。 『私のお肉、返してよ』 ひらひらと手を伸ばした。 『やだよ』 颯太は私から身を交わし、逃げていく。 『返してってば』 何故だか私は必死だった。それほど肉に執着などない。 なのに、何故か颯太を見失いたくなかった。 『颯太! 返して! 颯太、待って! 待って!』 伸ばされた手は、宙を切る。 何度も何度も手を伸ばしたのに、宙を切る。 届かない。 代わりに私の目の前を、ピンクの花が揺れていた。
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