私はその花びらのじゅうたんの上に転がり、夢を見ていた。

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颯太を探す余裕はなかった。 ただ、――嘘みたいで考えられなくて、夢中で走った。 購買の前を通り、食堂を通り、職員室の奥の重そうな鉄の扉で待ち構える校長室へ走った。 校長室からは談笑が聞こえてくる。 (おばさんの声だ) 暁の手術に、おばさんが着いて行ったからおばさんとも6年ぶりだ。 「暁!?」 ノックもせずにドアを開けると、ちょうど校長室から出てこようとしていたおばさんと目と鼻の先で視線が重なった。 「百花ちゃん。……大きくなったわね。心配してたのよ」 ぎゅうっと抱きしめられて息が止まる。 「心配したのは私の方だよ。暁は?」 ポロポロと涙が零れると、視界がぼやける。 タヌキみたいなお腹の校長先生の隣に、すらりとした学ラン姿の暁が見えた。 「俺は此処だよ」
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