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Side:米澤 壱樹
「いっちー。ライン教えてよーう」
「いっち、合コン行かない?」
制服姿の女の子たちが入れ替わり立ち替わり、天気の話をするかのごとく俺に聞いてくる。
だから俺はお釣りを渡しながら見るのは――彼女達の首にかけられた制服のリボンやネクタイだ。
「仕事中ですので関係ない話は止めてください」
煩わしいとさえ思ってしまう。それでも好きで作ったパンが売れるのは嬉しいので笑顔が浮かぶ。
でも本当に俺の事に興味なんて沸かないでほしい。
「もー。まじ冷たい」
「全然目も合わさないしね」
俺の空気に察した女の子たちは、さっさと退散してくれるが、パンを買うついでにまた同じ話を繰り返すだろう。
俺はこの仕事が好きだし、人と接するのも嫌いじゃない。
女性は表情豊かだから、嬉しそうにパンを買ってく姿は本当に嬉しい。
……でも表情に出さないようにしているけれど、俺は……どうしても避けてしまうものがある。
この駅の近くは大企業や大会社が立ち並ぶから擦れ違っても仕方ないのだけれど、学歴が高そうな、高級なスーツに身を包んでいる人を見ると、大学に行けなかったコンプレックスが心をかき乱す。
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