イち。

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「かじゅくーん。パンは?」 手ぶらで帰ってきた俺に、おずおずと控えめに先輩が言う。 「それどころじゃない。予定は変更した。昼休みは近づくことさえ無理です」 「じゃあ、パンは?」 「諦めてください」 「そんなああ」 だったら自分で行けばいいのに。 この前のニューヨーク支社での取引よりも、此方の駆け引きの方が胸が高鳴る。 やはり閉店間際だ。 閉店間際に滑り込み、何かまずは弱みの一つでも手に入れて切っ掛けを作らなければ仕方がない。 「そういえばお前、海外に転勤届だしてなかったっけ?」 泣いていた先輩が思いだしたかのように言う。 「それ撤回することになったんだった。教えてくれてありがとう」 にっこり笑って御礼を言えば、どれだけ日頃暴言を吐いていても頬を染めてくれる。 そうだ。海外の男を食べるのも良いかとニューヨーク支社に行こうとしてたんだ。 それを撤回してから、今日の会議を長引かせないようにして、それから向かう。 絶対に向こうから俺を求めてくるように仕向けなきゃいけないんだから、こっちは手を抜けないんだ。
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