イち。

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今朝も、俺より若そうな男の人が仕立ての良さそうな高級スーツで駅から自信あふれるオーラで改札口を通っていた。 あんな小さくて、女性みたいに綺麗な男のでもきっといい大学にいけたから、いい会社に就職したんだろうな。 『じいさんの店が借金で倒産するしかないらしくて』 『俺が会社辞めてじいさんの夢を継ごうと思う。だからお前も』 お前も大学を諦めてくれるか? 「……」 元々、パン屋は継ぎたいと思っていた。 でもそれは、経営の方で。 お店を立て直すためで。 だから大学へ行きたかったのだけれど、じいさんの病気で金が掛っていたのは知っていたし、――奨学金もある理由で条件が満たされなかったし。 暗くなった気持ちを、頭を振って追い払う。 いや、今は幸せなんだから他の人を気にしちゃ駄目だ。 ダメだ。 今の――満ち足りた生活で何で不満を思い浮かべてしまうんだ。 「……あのう」
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