キミの幸せだけを願っています

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「王子?」 「思い当たらない?」 浮かんだ選択肢は、二つ。一方は有り得る存在で、もう一方はそうであればいいと願う存在。 「瀬戸くん、あたしの彼氏、知ってるの?」 「え!加賀さんって彼氏いたの?!」 「あ、うん」 冷静に考えれば、麻宮さんと瀬戸くんが知り合いなわけがない。東京と広島の距離だ。 「いやいや、無茶振りってか、強引ってか、ワガママってか…加賀さんも、少しは頭に浮かんだんじゃない?」 「…瀬戸くんエスパー?」 コピー機の前、屈んだまま顔を近付け会話するその様子は怪しげで、やはり背後から視線を感じる。 これこそ被害妄想であればいいけれど。 「イジメの元凶の男だけど、それでもやっぱり、格好いいよね。あの人」 “あの人に会ったら、大半の男はああなりたい、って思うよ” その言葉を残して、瀬戸くんは自分の部署に戻って行った。 知ってる。 藤次郎には、女はもちろん、男だって惹きつける魅力がある。うちのお兄ちゃんたちだってそうだ。何とも思っていなかったら、かまったりしない。 慎平くんも、明人くんも、透くんも、みんな。 藤次郎に惹かれて寄ってくる。 「あたしだって…」 化粧室に行って、携帯の画面を確認する。紳士的な王子様からのメッセージが二件。 “今日はイジメられてない?” “明日の仕事終わってから最終でそっち行きます” 麻宮さんと約束した土日が、もうすぐそこに来ていた。
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